●税理士に相談するときに守秘義務契約をしたほうがいいか?

税理士に相談する際に守秘義務契約(秘密保持契約:NDA)を締結すべきかどうか、またその契約内容について悩まれる方も多いと思います。結論から言えば、場合によっては守秘義務契約を結ぶことは有効かつ安全策であり、特に起業前や重要な経営判断を含む相談をする際には、検討に値します。以下で、その理由と具体的な契約内容について詳しく解説します。


1. 税理士には「法的な守秘義務」がある

まず前提として、税理士には税理士法第38条により、法律上の守秘義務が課されています。これは、業務上知り得た依頼人の秘密を、正当な理由なく他に漏らしてはならないというもので、違反した場合は懲戒処分や罰則の対象になります。

つまり、税理士に相談するだけで、一定の守秘義務は自動的に発生します。したがって、多くの場合では別途契約を結ばなくても、法的には守られることになります。


2. それでも守秘義務契約を結ぶべき場面とは?

しかし、以下のようなケースでは、書面による守秘義務契約を交わすことが望ましいとされます:

  • まだ正式な契約前に相談する場合(無料相談やお試し面談など)
  • 独自のビジネスアイデアや技術、商品企画を説明する必要がある場合
  • パートナー選定中で複数の専門家と面談する際
  • M&A、投資、資金調達などの機密性の高い情報を共有する場合
  • 税理士のスタッフや外部協力者が情報に触れる可能性がある場合

このような場合、法的な守秘義務とは別に、民事的な証拠や予防措置として守秘義務契約を結ぶ意義があります。契約書があることで、「こちらがどの情報を秘密として扱ってほしいと思っているのか」が明確になるからです。


3. 守秘義務契約の主な内容とは?

税理士と交わす守秘義務契約書に含めるべき主な項目は以下の通りです:

(1)定義:秘密情報の範囲

  • 例:「口頭または書面により開示された、技術・財務・経営・事業に関する一切の情報」
  • 「秘密である旨の明示が必要か否か」「口頭情報も対象に含むか」は明記する

(2)使用目的の限定

  • 開示された秘密情報を「相談業務の目的のみに使用する」と限定
  • 事業に無関係な二次使用・開示の禁止を明記

(3)第三者への開示禁止

  • 税理士法人内のスタッフに必要最小限の開示が認められるかどうか
  • 外部業者(記帳代行者、ITベンダーなど)への再開示禁止の有無も記載

(4)契約期間と守秘義務の存続期間

  • 通常は「契約終了後●年間」などの条項が入る(一般的には2〜5年)
  • 永続的な守秘義務を求めるケースもあるが、双方の合意次第

(5)違反時の対応(損害賠償・差止請求など)

  • 守秘義務違反があった場合の対応や、損害賠償請求の可能性
  • 書面返還・データ削除義務なども含めておくと安心

4. 税理士側が守秘義務契約を嫌がることはあるか?

多くの税理士は、「守秘義務は税理士法で義務づけられている」として、あえて守秘義務契約の締結に応じない場合があります。しかし、真摯な専門家であれば、こちらの懸念や理由を丁寧に説明すれば、柔軟に対応してくれるケースがほとんどです。

もし契約締結を強く拒む、またはその理由が不明瞭な場合は、信頼性の観点で再考したほうが良いこともあります。


5. 守秘義務契約は「誠実な付き合い」の象徴でもある

守秘義務契約は、相手を信用していないから結ぶものではなく、お互いの立場を尊重し、安心して本音で相談できる環境をつくるためのツールです。特に創業期や機密情報が多い経営戦略の話をする場合は、契約を交わすことでむしろ信頼が深まります。


まとめ:ケースバイケースだが、結んでおくのが無難

  • 税理士には法律上の守秘義務があるため、通常は契約不要
  • ただし、アイデア段階の事業内容や重要な非公開情報を話すなら、守秘義務契約の締結をおすすめ
  • 契約内容には、「情報の定義」「使用目的の制限」「開示の制限」「期間」「違反時の措置」などを明記
  • 納得感のある関係を築くための一歩として、丁寧に相談しながら進めることが大切

●守秘義務契約書のひな形

以下は、**税理士との守秘義務契約書(秘密保持契約書/NDA)**の一般的なひな形です。事業主が税理士に対して、事業上の機密情報を開示することを前提に、秘密の保持を求める内容になっています。内容は一般向けですが、状況に応じて条文を調整することをおすすめします。


守秘義務契約書(秘密保持契約書)

本契約は、以下の当事者間で締結されるものであり、一方当事者が相手方に対して秘密情報を開示する際の取扱いに関して、以下のとおり合意する。


第1条(定義)

本契約において「秘密情報」とは、口頭・書面・電子データその他いかなる形式を問わず、甲(開示者)から乙(受領者)に対して開示される、業務上・技術上・経営上その他事業に関する一切の非公開情報をいう。なお、以下の情報は秘密情報に含まれないものとする:

  1. 乙が既に知得していた情報
  2. 公知となっている情報(ただし乙の責に帰すべき事由によらない場合)
  3. 正当な権限を有する第三者から適法に取得した情報
  4. 甲から秘密保持義務なく開示された情報

第2条(秘密情報の取扱い)

  1. 乙は、秘密情報を第三者に開示または漏洩してはならない。
  2. 乙は、秘密情報を本契約の目的(税務・会計に関する相談およびそれに付随する業務)以外には使用しない。
  3. 乙は、秘密情報を管理するにあたり、善良なる管理者の注意をもって適切に取り扱うものとする。
  4. 乙は、自己の職員または業務上関係のある第三者(例:記帳代行者等)に対して秘密情報を開示する場合、当該者に本契約と同等の守秘義務を課すものとし、その履行について連帯して責任を負う。

第3条(契約期間および守秘義務の存続期間)

  1. 本契約の有効期間は、契約締結日より1年間とする。
  2. 契約終了後も、乙は開示を受けた秘密情報について、契約終了日から3年間、本契約と同等の秘密保持義務を負う。

第4条(返還および消去)

本契約終了または甲からの要請があった場合、乙は秘密情報(文書・電子ファイル等)およびその複製物を直ちに返還または消去するものとし、消去した場合にはその事実を証明する文書を甲に提出する。


第5条(損害賠償)

乙が本契約に違反し、甲に損害を与えた場合、乙は甲に対してその損害を賠償する責任を負う。


第6条(例外的開示)

乙は、法令または裁判所等の公的機関により秘密情報の開示を求められた場合、速やかに甲に通知し、甲の指示を仰ぐものとする。ただし、指示に従うことが困難な場合は、必要最小限度において開示を行うことができる。


第7条(協議事項)

本契約に定めのない事項や疑義が生じた場合は、甲乙誠意をもって協議し、円満に解決を図るものとする。


第8条(合意管轄)

本契約に関して訴訟の必要が生じた場合は、甲の所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。


以上、本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保有する。


【契約当事者】

甲(情報開示者)
氏名(法人の場合は名称):〇〇〇〇
住所:〇〇〇〇
代表者名(法人の場合):〇〇〇〇
署名・捺印:________

乙(情報受領者・税理士)
氏名:〇〇〇〇
税理士登録番号:〇〇〇〇〇〇〇〇
事務所住所:〇〇〇〇
署名・捺印:________


補足

  • 本書はあくまで「標準的なNDAの形式」です。事業規模、内容、対象データの性質などに応じて調整が必要です。
  • 細かい調整や法的精度を高めたい場合は、司法書士・弁護士にレビューを依頼することをおすすめします。